◇     8.幸福論   〜 蒼 〜  【R18】


 天海の名と、見合いの話題。
 その後に覗いた白いうなじで、簡単にタガが外れた。
 背中を抱きしめながら、目につく肌全てに口づけて。
 半ば覆いかぶさるように潤んだ瞳を見つめる。

(ああ、やっぱ駄目だ。ただ素直に、を抱きたい……)


 好きになればなるほど、いつも遠くに感じていた。
 隣りで笑ってくれるのに。心が寄り添っていると日々実感できるのに。
 コイツの手足に絡む無数の鎖に、いつ持ってかれるんじゃねーかと不安になる。

 『大切にしたい』とか格好つけながら、本当は頭の隅で黒い思惑が働いていたんだ。
 繋がってしまえばきっと優位に立てる。見合い相手よりも、天海よりも。
 でもが囁いた甘い言葉に、そのすべては払拭される。


「早く……蒼くんのモノになりたいよ」
「…………」


 心が欲するままに、こいつに触れてしまおうと決めた。
 よけいな事は、もう何も考えない。





 腕の中で小さな身体を回転させ、後ろ髪を指ですくいながら軽くキスを落とした。
 でもそれじゃすぐに足りなくなって、唇のすき間から深く舌をねじ込み、たどたどしく伸びるの舌を容赦なく掴まえる。
 歯列をなぞり、唾液を絡めとり。いつも以上の興奮を覚えながら、性的な口づけを繰り返した。
 滑りと熱を帯びた愛しい者の口内を、気のすむまで味わう。


「……ふぅ……」


 苦しそうに息をついたのに気付いてゆっくり解放してやると、どちらのものともいえない透明の糸が細く紡がれた。
 桜色に染まった頬と、妖しく艶めく唇。
 それを見つけてもう一度貪りたくなるけど、はトロンとした目で俺にもたれ掛り、すでに身体に力が入らないといった状態だった。
 身勝手な欲望のまま、こいつを冷たいフローリングに押し倒すわけにはいかないよな。
 膝裏と背中に腕をまわして抱きかかえ、窓際のベッドまで大切に運んだ。
『お姫様だっこ』とか言うんだっけ。こーいうの。
 掛布団を折り白いシーツの上に腰を下ろして、壊れものを扱うように横たわらせる。


「あ……」


 コトが本格的に始まることを察してか、は落ちつきなく顔を背けた。
 OL使用の淡いピンクのシャツと、グレーの膝丈のシンプルなスカート。
 スラリと伸びた脚は黒地に品のあるラメが散らばったタイツで覆われていて、素肌なんてほとんど目にできない。
 それでも。
 普段俺1人が寝起きする場所に、ずっと欲しかったコイツが無防備に転がっている。
 その事実だけで頭がクラクラして、触れようと伸ばした指が情けなく震えた。


 左手でそっと顎に触れコチラを見るように促すと、俺はもう一度ついばむようなキスをした。
 額から頬。首すじをゆっくりと下って、鎖骨の凹凸に舌を這わす。
 さらに下へ続くために、シャツのボタンを1つ2つと外した。
 ビクッ。
 3つ目に手をかけた時、の身体が強張るのを感じて俺は慌てて顔を上げる。


「どうした……?」
「……あの……あのね。恥ずかしいの、すごく……。電気……明るくて……」


 言われてやっと気づいた。急き過ぎだ。
 しかもスイッチは風呂場に続く、扉の横だし。


「悪い……」「ごめんね……」


 俺の声にかぶって、は申し訳なさそうに呟いた。


「蒼くんがそういうのが好きなら、そうしたいんだけど……。わたし……初めてだから……できればそのぉ……最初は……」


 顔を赤らめてモジモジ肩を揺らすが、妙な誤解をしてるだろう事はとりあえず置いといて。
『初めて』
 たぶんそうだろうとは思ったけど。もしかしたら、って可能性もあるわけだし――なんて。
 さんざん想像した期待通りの言葉をの口から訊けたことに、子供みたいに胸が高鳴る。
 と同時に最高レベルのプレッシャー。
 そうだ、大切にしなければ。未知のモノを受け入れる痛みに、不安とか恐怖を感じてないわけがない。
 刻む傷跡はたった1つにしてやりたい。


「怖いか?」
「……ううん。ぜんぜんっ」


 …………。そんなわけねーだろ。
 上ずる声が証明してる。


「優しくする。お前はただ、身を預けてくれればいい。けど――」
 俺も経験が少なくて、まだ不慣れだから。
「嫌だとか痛いとかは、ハッキリ伝えてくれ。無理強いはさせたくない」


 は潤んだ瞳をこちらに向けて、「うん」と頷いて笑んだ。
 真っ直ぐに見下ろせば、うっすらと紅潮した肌がやけに艶めかしい。
 視覚で感じる悦を失うことを惜しみつつ、シーリングライトの灯りを消す。
 間接照明なんて気のきいたもんはこの部屋にはない。
 暗闇に慣れない目を必死にこらして、ベッドで待つに手探りで近づいた。
 ふわりと唇を合わせただけ。
 なのに見えないせいか、柔らかな感触に敏感になる。
「ふぅ……」
 端から漏れる吐息の音にも。


 ヤバイ。


 たまらなくなって、シャツのボタンを一気に外した。
 肌けた胸もと。
 指先がザラッとした素材の布をかすめ、上半身があと1枚で守られていることを察する。
 柔らかいだろうそこに早く手を伸ばしたい衝動を抑え、谷間までゆっくりとキスを下す。
 見えない中での行為は、臭覚までも刺激した。
 何か甘い……の体。熟したフルーツの匂い?
 フワリと鼻孔をくすぐるこの状況でのコレは、もう食べてくれと誘ってるようにしか思えない。


「何か付けてるのか、ここ」
「あ……香水をちょっと……。もしかして苦手だった?」
「いや。これくらいなら気にならない。っていうかむしろ、蜂の気分」
「えぇ? ハチ?」
「ああ。蜂だ」


 香りに導かれるように数度谷間に口づけて、俺はフッと笑いかけた。
 そんなことでも多少緊張がほぐれたのか、は口元を綻ばせて「ホントだったんだ」と呟く。

「あのね。香水はキスされたい場所につけるとイイんだって」


 ……おい。
 それは俺がココに顔をうずめる行為を、望んでたってことでイイのか?
 …………。煽りすぎだろ。何でもないカオで、しれっと言うな。


「その話、他の男にはするなよ。絶対」
「え? ……わたし、何か変なこと言っちゃった?」
「変じゃない。変じゃねーけど。お前が口にすると妙な勘違いが生まれる」
「ふふ。素敵な話でしょ?」

 ……。
 相変わらず、何でこんなに天然なんだ。




 背中に腕を回し上半身を抱きおこしながら、包み紙をはがすように丁寧に服を脱がせた。
 をやっと下着姿にさせた頃、タイミング良く部屋の暗さに目が慣れる。
 ヒラヒラした素材のすみれ色の上下は色っぽくて、どこか無垢で。何か、らしいなと思った。
 プツンと後ろのホックを外し腕から薄布を引き抜くと、は気恥ずかしそうに躰を捩る。

「ぅぅ……」

 往生際悪く両手をクロスさせ、上目づかいに俺を見あげた。
 胸元を隠してるつもりらしいけど豊満な2つの膨らみは形を変えて溢れんばかりで、何かよけいに厭らしく見える。
 それにしても……痩せすぎじゃねーか?
 上部に反して細すぎるウエストに、大丈夫なもんかと心配になる。


「もう少し、太れよ」
「え!? 胸はもっと大きくなきゃダメなの?」

 ……。どうしてそうなる。


「いや。胸が大きいことは知ってた。そうじゃなくて」
「え、え? 知ってた、って?」

 思いがけない所に食いついてきたに、俺は困ってポリポリとこめかみを引っ掻いた。


「だってほら、お前。初めて会った日、水着だっただろ」
「……あの時、見てたの? 蒼くんが? あんなクールにしてたのに?」
「アレは目いくだろ、普通。2人きりの部屋であんな格好されて、手が伸びなかっただけ有難いと思ってくれ」
「そうなの……?」
「ああ、そうだ。そもそも何であんな格好してたんだよ?」
「えっとぉ……。たしかAKBのPV観てたの。彼女たちが堂々としててすっごく可愛かったから、真似してみようかなぁ……なんて」
「……おい。芸能人のそれは、目的あっての営業だろ? 男のそういう感情をつかむ為の」
「そういう感情……って?」
「…………。いや、もういい。とりあえず自宅とはいえ、2度とあんなカッコでウロウロすんな。お前ん家は他人の出入りも激しいし、
何かあってからじゃ遅い」
「う……うん?」


 丸い瞳をただキョトンとさせるこいつに、危機感なんてもんは微塵も感じられない。
 ふー。
 俺は見えないところでため息をついた。
 男の目を引きやすい体つきと、アクなく整った顔だち。加えてビニールハウス育ちなんて。
 よくもまあ此処まで無事でいられたと思う。

 …………。
 ああ、そうか。
 いつもそばにいたアイツがさりげなく囲って、近寄ってくる輩の前に立ちはだかっていたわけで。
 だとしたら俺の存在は誤算だったに違いない。
 籠の内に呼び入れたのは他でもない、アイツ自身なのだから。



「……蒼くん?」
「!」


 チラついた優越と劣等を悟られまいと、性急に唇を奪った。
 深いキスを繰り返しながらなめらかな肌を撫で、必死でクロスするの腕を胸元から引き離そうと試みる。


「触りたい。ここ」
「あ……」


 やっと力が抜けた両腕をシーツに下し、2つの膨らみの片方に右手を寄せた。
 うっ……柔らかい。
 包み込んでゆっくりと揉みほぐし、手の中で形を変えるそれを楽しんでいると、巧まずして指先が先端をかすめる。


「んっ……」


 の口から思いがけず甘い声がもれた。
 もう一度聞きたい。ココに口づけたら、次はどんな声があがるんだろう。
 衝動的に顔を近づけ、ピンク色の突起にチュッと音をたてて吸いつく。


「……ふぅあっ……」


 期待通りの鳴き声。
 自分の指を小さく噛みながら、顔を赤らめて羞恥する姿がたまらなく可愛い。
 舌先を尖らせて輪郭をなぞって、先端を執拗に転がした。


「んん……あんっ……」


 普段は幼い印象が強いの、いつもと違う艶っぽい表情。
 俺だけしか知らないカオ……だよな。
 嬉しくて。その先がもっと見たくて。舌の動きはそのままに、右手をゆっくりと下半身に伸ばす。
 腿をサラリと撫でると、それ以上の侵入を阻止するように両脚が固く閉じられた。
 

「。足、開いて」
「う、うん……」


 間を強引に抜けて中央に触れると、下着の上からでもはっきりと分かる生温かい湿り。
 安堵とさらに湧きあがる劣情のままに、薄布のすき間から中指を差し入れた。


「あんっ……」


 の躰がビクンと大きく跳ねた。
 ほとんど身動きのとれない空間の中で、ヌルリとした蜜を頼りに上下に指を滑らせる。


「んんっ……はぁ……」


 身をよじった隙を狙って下着をはぎ取ると、生まれたままの姿になったと一瞬目が合ってすぐに逸らされる。


「……嫌か?」
「ううん……。イヤじゃないよぉ」
「だったらもう少し、力を抜いてくれ。これじゃちゃんと気持ち良くさせられない」
「ん……」


 膝がクタッと落ちたのを確認して、俺は指の腹で秘部にゆっくりと円を描いた。


「あんっ……ふぅぅ……」


 くぐもった声が漏れるたびに、トロトロと愛液が溢れ出てくるのが嬉しい。
 顎先を揺らして肩をすくめるとか。声をつまらせて喉を鳴らすとか。
 素直な反応を1つ1つ返されるたびに、つい口元がほころんでしまう。


「声、我慢するなよ」
「む……ムリ。すっごく恥ずかしくて……」
「そういうコト気にしてると、真に感じらんねーだろ。挿れる時、なるべく痛くさせたくない」
「大丈夫だよ……。痛くても平気だもん……」
「俺がヤなんだ。が辛い思いすんのは」
「……蒼くん……あんっ……」


 合わさった花びらを押し広げ、温かい潤みを上部の肉芽に擦りつけながら、もっと蕩けてくれればと願った。
 胸元から下腹部へ舌をゆっくりと這わす。
 茂みをよけて脚の付け根までなぞると、俺は触れていた指の代わりに口先と舌を使ってのソコを愛した。


「ひゃんっ……」


 その瞬間バタンと容赦なく両脚が閉じて、太腿に勢いよく顔を挟まれる。


「だ、ダメ……蒼くん。それはイヤ……」
「何で? 力抜けって」
「イヤ。絶対ダメ。……お風呂も入ってないし……汚いもん……」
「お前のどこを舐めたって、汚いと感じるとこなんてねーよ。だから――」
「うぅ……じゃあ今日はイヤ……。次にして。お願い……」


 次、なんてウマイ交わし方、上級者テクだと思う。マジで。
 
「…………」

 そこまで言われちゃ強引なことはできないと、俺は諦めて顔を上げた。
 シャワーを浴びさせる間を与えなかったのも、されて嫌なことはハッキリ伝えてくれと初めに言ったのも俺だ。


 ブラインドの隙間から差し込むわずかな月明かりが、の潤んだ瞳をぼんやりと照らした。
 こいつ、こんなにキレイだったか……?
 引き寄せられるみたいに唇に吸いつき、下部への愛撫を再び続ける。
 熱いトロミに誘われるがままに、指を1本。そして2本。
 窮屈な膣内を押し広げながら、グルリと静かに回転させた。


「ふぅ……ぁぁ」


 ピチャピチャと卑猥な水音をたてて出し入れを繰り返すと、しばらくしての腰がガクンと揺れる。


「あ、痛かったか?」
「……ううん、平気。ただ……」
「ただ?」
「うん……あのね……すっごくキモチいの……」
「!……」


 初めての刺激にうっとりとした表情でコチラを見上げるに、俺の下半身はドクッと熱く脈打った。
 駄目だ、早く繋がりたい。
 欲望のままにコイツの中に捩じ込んで、奥まで激しく貪りたい――。

 指を引き抜いて擦りあわせ、愛液の量を確認する。
 大丈夫。これならきっと、あまり痛がらせないですむだろう。
 っていうか、俺の方がもう限界だ。
 服を乱暴に脱ぎすて裸になると、反り立つモノに素早く避妊具を被せた。


「そろそろ挿れるな、いいか?」
「うん……」
「なるべくゆっくり……痛くないようにするから」
「うん……」


 頷きを確認してからの額に口づけし、俺は両脚を大きく上下に開かせてその間に身体を割入れた。
 己の先を押し付けて、腰を少しずつ沈める。
 ……が、まだ固いソコは外部者を激しく拒絶して、当然のごとく強く押し返された。


「んっ……!」


 初めての痛みに苦しそうにするコイツがとても愛おしかった。
 雄をあてがったままふわふわの髪を撫で、頬にキスを数度落とす。
 の反応を確かめながら、窮屈な膣内に道を作るようにちょっとずつ侵入していく。


「ふぅ……っぅっ」


 声を押し殺し、必死で耐えて。
 は無意識に逃げ場を求めて、体を上へ上へとずり上げた。
 3歩進んで2歩下がる。そんな攻防戦を繰り返すから、まだ半分も収まりきらない。


「……、危ない。頭、板にぶつかる」

 頭部を抱え込んで庇い、ベッドの中心へ連れ戻した。


「あ……ごめんね……」
「辛いか?」
「ううん。……ぜんぜん平気。ちっとも痛く……ないよぉ」


 ああ、まったく。涙目で何を言う。
 可愛すぎるよ、お前。


「もう……堪んない」


 溢れだす感情に語尾がかすれて、自分でも驚くような低い声が漏れた。
 は大きく目を見開き、「蒼くん……?」と心配そうに俺の名を口にする。
 その瞬間ツルンと呑みこまれるように、欲情で膨れあがった俺のモノが根元までしっかりと押し込まれた。


「あ、入った……。分かるか?」
「う……うん。すごく……」
「ちょっとずつ動く。イイか?」


 は覚悟を決めて、無言でコクコクと首を縦にふる。
 俺は肩を抱きしめて躰を密着させ、繋ぎ合わさった部分にわずかな動きを与えた。

 ……うっ。
 たった一度、柔らかな内部に雄を突き当てただけ。なのにヤバイ。
 抑えこんでいた欲望が弾けて、脳が痺れるほどの快感をもたらす。
 それでも初めは緩慢に。
 でも次第に我慢がきかなくなって、意志と反して力強く律動してしまう。


「……はぁ……っあん……」


 耳元であがる嬌声はさっきよりも甘さを含んでいて、それがまた俺の理性を崩しかけた。


「……悪い。加減がきかない……。の中……すげーキモチ良くて……」


 心の通い合う行為の心地良さに、光悦となりながら往復のスピードを速める。
 ギシギシと音をたてて軋むベッド。
 自我を取り戻すたびにの髪を撫でながら、唇を奪って舌でかき回す。



「そう……くん……」


 ふと気づくと、の頬には涙がつたっていた。
 あ……やっぱり痛いんだよな、まだ。
 心配になるけど、快楽の波がつぎつぎに押し寄せてきて、脳が正常な判断をくだせない。

 大切にしたいのに。無理なんか絶対にさせたくないのに。
 どうしよう。
 もうヤメテやれそうにない……。
 シーツに爪を立てるの手をそっと開き、指を絡めてギュッと握った。


「……好きだ……」


 弾む息と掠れる声で、精一杯の愛を囁いた。
 もう少しだけ我慢してくれ。
 脚の付け根を持ちあげて膝を折るよう促し、最奥へと腰を打ちつける。


「んあ……っん……」


 苦痛だろうにそれでも柔らかい吐息を弾ませ、は涙をポロポロと零しながら唇を動かした。


「好き……私も。蒼く……んっ……」


 両手を俺の首へと伸ばし、無我夢中でしがみつく。
 うっすらと汗ばんだ肌は温かく、胎内はねっとりと吸いつくように熱い。
 キュウキュウと締めつけてくる内壁を幾度も擦りあげながら、俺の躰は最上階の悦びを求めて性急に駆け上っていった。


 ああ、好きだ。誰よりもコイツが。
 どんな男にも譲りたくない。



 頭が真っ白になって快楽が頂点に達する。

「うっ……」

 の上に覆いかぶさり、小さな肩を壊れるほど抱きしめながら。
 俺は白濁の液体を愛する女の中で大量に解き放った。




「ハァ……はぁ……は……」


 距離なく抱き合えて、すべてを独占できて。
 コイツのことがますます好きになる。
 こんな幸福に満ちた時間を、俺は他に知らない。



「……」
「……なあに……?」
「受け入れてくれて、ありがとな」
「そう……くん……」


 は濡れた瞳を細めて笑い、「私こそ」と唇を動かした。

「受け止めてくれて……ありがとう」







 深夜2時。
 いまだ火照る身体を冷ますように、俺はミネラルウォーターを一気に喉に流し込んだ。
 なかなか寝付けない。
 いや……眠れるわけがない。勿体なくて。
 こっち側に顔を向けてスヤスヤと寝息きをたてるに、もう何度目か分からないキスを落とす。


「……あ」


 冷えた肩を毛布でくるみながら、ふと昨日渡しそこねた物の存在を思い出した。
 今日はもう、クリスマスなんだよな。
 さんざん悩んで決めた、苦手ジャンルの捧げもの。朝一番、が目覚めた瞬間に手渡したい。

 オレンジ色の小さな箱を右手に握りしめて、俺はその腕をの首下へと回す。
 腕枕でプレゼント。
 包み込むように抱きしめて眠り、また一つ新しい幸福感に包まれた。





    

 
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