▽番外其の一   〜妖を操る者〜 




 光の渦。
 音の嵐。
 それに群がる、さまざまな欲望――。




   




 午後7時。
 東京の街並みを高層ビルの屋上から、虫箱をのぞきこむみたいに眺める者が1人。
 2つボタンの細身のスーツ。ラフに羽織った長めのコート。
 右目を覆うは、白い眼帯――。

 人目をひく姿ですんなりと闇に溶けこむその男は、力をぬいてフッと微笑した。



「オードブルにスープ、メイン。その先にはデザート……」



 行き交う人々と自動車のあかりを、弾くように順番に指しながら。
 たまらなくなって、ペロッと唇を舐めあげる。




「いつの世も、東京ココは喰うに困らない」







 少しして、男の胸元が青白く発光した。
 見える人にだけ見える、霊魂の揺らめき。
 我を主張するそれに穏やかな視線を落とし、ジャケットの内ポケットから掌サイズの何かを取り出す。


 鏡だった。


 緑がかった鉄製の縁取りと、縄状の文様以外は何の変哲もない。
 男は鏡の表面を中指で2度ほど丁寧になで、奥にこもっていた霊魂をその場に解放した。
 白い人魂が歓喜の声をあげ、蛇行しながら頭上に舞う。



「見つけたか? お前のうつわとなる人間を」



 その問いに、魂は妖力ようりょくを滲ませることで答えて、スルッと群集の海へと飛び込んでいった。
 男は下界を覗きこむ。
 数百メートル先を『心の目』で探ると、スクランブル交差点を小走りで渡る20代の女が見えた。
 意思の強そうな瞳でまっすぐに前を見て、おかっぱの髪を弾ませながら軽やかに駆け抜ける。

 その肩に、長く彷徨っていた『別の霊魂』が吸い寄せられるように沈んだ。
 男はその一部始終を見届けてから、息をもらして独りごちる。



「アレに惹かれたか」


 強い風に、漆黒の髪が不揃いになびく。



「だがあの器、一筋縄では落ちまい……」



 憂えて体ごと大きく振り返ると、男は首を左右にコキコキと鳴らした。
 のち、近くのフェンスにもたれて腕組みし、穏やかな視線を斜めに流す。



「たちばな、見守ってやれ」




 これまで後方で静かに控えていた長髪の男――橘――は、一礼してから一歩前進。
 眼帯の男の足元に跪いて、答える。



「御意のままに。祟峻すいしゅん様――」
















そしてココから 2つの輪が交錯し

は 三種の大義に苦悩する


 
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