◆    8.潜入



   


(……うわぁ。ココがキャバクラ……!?)




 タバコとお酒の匂いが充満する、薄暗い店

内。

 ロリータクラブ『バンビーナ』のキャスト

に扮した私は、分厚いカーテンをチラリと捲

り上げて、怪しげな光を放つミラーライトを

ドキドキしながら眺めていた。



 想像していた『夜のお店』は、ゆったりソ

ファーに華やかな照明。盛り髪の派手な女の

子たちがドレスを着て……という感じだった

のだけど――。

 喫茶をイメージしたらしいバンビーナの店

内は、『夜のメイドカフェ』といったところ

だ。



 今私が立っているのは、『裏』と呼ばれる

女の子たちの待合室。

 面接を受けた時点から大切に扱われていて、

まるでショーケースに並べられる前のブラン

ド品にでもなった気分。


 この後『待機』という指示で入り口近くに

並んで座り、お客さんからの指名を待って、

やっとテーブルにつくという仕組みらしい。



 体験入店という形でバンビーナに潜入した

私の役目は、常連客である『金髪メガネのヲ

タ男』に気に入られること。

 そこから2人きりに持ち込んで、男が妖力

者という裏の顔を見せるように上手く誘導す

る。




「可愛い衣装も着れて、ドリンクは飲み放題。

客にねだればケーキだって食べられるのに、

お小遣いも稼げる。にピッタリの仕事だ

と思うけど?」



 そんなしーちゃんの言葉にのせられて、ア

ナスイの新作ワンピを報酬に、軽く引き受け

てしまった。


 でも…………。



(そんな簡単にいくものかなぁ……)


   


 近くに立てかけられていた鏡に全身を映し、

アキバ系アイドルちっくな水色のワンピの裾

をフワッと翻してみる。

 露出度の高いキャミワンピは、お約束の超

ミニ丈で。

 ちょっと屈めば上も下もかなり危険な状態

だ。

 そして極めつけはこのツインテール……。



『金髪ヲタ』の好みらしいんだけど。


 ……なんか。うん、かなり。

 イイ・・趣味してるなぁ、という感じ。



 今後の展開に少しだけ不安を感じて、私は

手にしていた携帯電話をギュッと胸に抱きし

める。




『ちゃんとフォローする。だからは、相手

の誘いに乗っかるだけでいい』


 この『おとり作戦』を最後まで反対してく

れた蒼くんは、昨日の夜そんなメールを送っ

てくれた。


 具体的なコトは何も聞いていない。

 でも。でも。


(あ〜。コレだけで頑張れちゃうよ〜)

 
 滅多にもらえない大好きな人からのメール

に、思わず顔がにやけてしまう。




 そんな時、フロアーと裏を仕切っていたカ

ーテンがスーっと開き、マネージャーと呼ば

れた男の人が私に小さく手招きする。


「アリスさん5番テーブルへ。ご指名です」


 ありす……?

 あ、私の源氏名ってヤツだよね。


 ……ん? っていうか、もう指名?



「あ、はい!」


 慌てて返事をして、恐る恐る光の下へ顔を

出すと――。





 そこには、予想もしていなかった光景が広

がっていた。




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