◆    9.クリスマス・ラブ


 蒼くんの腕に縛られて目覚めた、クリスマスの朝。
 素肌の感触と全身で感じる体温に、昨日の夜のできご
とが夢じゃないんだって実感できる。


(……しちゃったんだよね、私。蒼くんと……)
   

 視線を上げるとすぐ近くに彼の顔があった。
 まだ寝てる。
 ふふふ。なんかちょっと可愛い。
 いつもクールで甘さ控えめな蒼くんが、私に腕枕した
まま抱きついてるなんて……。
 少し前までは想像もつかなかった現実だ。


 起きるのも起こすのももったいなくて、身体を預けた
まま余韻にひたる。
 初Hはただただ幸せだった。
 大好きな人に触れられて、キスのシャワーを浴びるこ
とがこんなにも気持ちいいなんて。
 あんなイヤラシイ声、よく自然に出たよね。
 きゃぁぁぁぁぁ〜!!
 思い出しただけで卒倒しそう。


 そりゃあね、痛かったよ。やっぱちょっと。ううん、
すごく。
 『処女膜がやぶれる』っていうくらいだから、ふさが
りかけたピアスホールに無理矢理ファーストピアスを突
き刺すような鋭い痛みを覚悟してたんだけど。
 実際は予想とはだいぶ違ってた。
 どっちかっていうと引きつるような、乾いた肌をつね
るような、火傷みたいな鈍い痛み。
 だから蒼くんのモノが私の潤いの中に納まった後、苦
しさはほとんどなかった。
「辛いか?」とか「ゴメン」とかいっぱい気づかってく
れてたけど、ホントの本当に大丈夫だったの。


 それでも涙があふれたのは、心から嬉しかったから。
 深い場所でつながれた気がして。
 やっと彼を手に入れられた気がして。
 満たされた独占欲と安心感に心が震えたんだ。
 昨日の大切にされた時間を思い出すだけで、しばらく
は頑張れそう……。
 ほんわかした気持ちでもう1度目を閉じかけて、私は
ハッと我に返る。


 ……って。
 のんびり2度寝してる場合じゃないってば!
 メイクしたまま眠っちゃったし、シャワーもけっきょ
く浴びれなかったし。
 蒼くんより早く起きてキレイにしなきゃ、だよね。
 朝になってすべての魔法が解けちゃったんじゃ、あま
りにも悲しすぎるもの。
 そっと彼の腕の中から抜けだして上半身を起こす。
 !?
 するとシーツの上に、オレンジ色の箱が転がった。


「……なに? このカワイイものは……」


 思わず声にだして呟くけど、リボンのかかった手の平
サイズのアクセサリーケースが、自分へのプレゼントだ
ってことはすぐに察する。
 半回転したそれは、蒼くんの手の中からこぼれたよう
に見えた。
 ずっと握っててくれたのかな? リボンが片方ほどけ
かかってる。
 クリスマスの朝目覚めたら枕元にプレゼントなんて、
何年ぶり?
 蒼くんは私に一体どれだけのものを与えてくれるんだ
ろう。


 また涙が溢れそうになった。
 両手で箱を拾いあげて、胸の前で大切に抱きしめる。
 ――と、予期なく腰を引き寄せられて、私は再びベッ
ドに右肩をついた。


「お……おはよぉ……蒼くん」
「…………メリークリスマス……ん」
「えっ? えぇ? う、うん。メリークリスマス……??」


 くぐもった声に戸惑いながら首だけで振り返ると、蒼
くんはまだ半分寝ぼけたまま目元を必死でこすっていた。


「……それ、プレゼント。お前の……」


 そう言いながら背中をギュッと抱きしめて、無意識に
私の頭を撫でるの。
 うわ〜〜っ。コレが一線を越えた恋人同士の距離!?
 裸で抱き合うことにまだ慣れない私は、朝日が差しこ
む中でのスキンシップに身体が火照らずにはいられない。


「開けてみろよ、ソレ」
「う……うん」


 彼はまだ頭が目覚めてないって感じだった。
 抱き枕のように私にしがみついて言葉を発するけど、
まったく目が開いてない。
 半分寝てるんだろうなぁ、これは。


 くすっ。
 思わず笑みがこぼれる。
 朝弱いんだ〜。新しい発見。もぉカワイすぎるっ!!
 束縛された不自由な手足をうれしく感じながら、オレ
ンジ色の箱をていねいに開いた。


「うわぁ〜!」
   

 蒼くんが選んでくれたのは蝶がモチーフのネックレス。
 ジルコニアが煌めくポップなデザインで、女の子なら
誰もが「かわいいっ」を連呼しちゃうようなシルバーア
クセだった。
 好きな人からもらう初めてのプレゼント。
 何を受けとったって飛びあがるほど嬉しいけど、これ
は間違いなく私のストライクだよ。


「ありがとぉ……蒼くん。大切にするね」


 言いかけてスルッと、それを持っていかれる。


「つけてやる。前、向いてろ」
「う、うん……」


 あれ……? まだ寝ぼけてる??
 ぎこちなく首に手を回し金具を留めようとしてくれる
けど……。
 チラっと見上げた蒼くんの目、まだ開いてないの。頭
が時々ガクッと落ちたりして。
 当然ながら何度やってもナカナカ引っかからない。


「ムリ……しないでいいよ」


 そりゃあこんな状態でも私のことを考えてくれるのは
感動だけど。
 もうそういうのを通り越して、笑いがこみ上げてくる。
 いやいや、笑っちゃダメでしょ!
 ここはドラマとかだったら最大の見せ場なんだし。
 クッ ククッ……
 必死で堪えているとしばらくして蒼くんは、諦めたよ
うにチョウチョを私の手の中に戻した。


「……」


 そして色っぽく囁きながら私の顎を引き寄せ、有無を
言わさず唇を奪う。


「……んっ……ふぅ……」


 昨日の続きみたいな甘いキスに、思わず吐息がもれた。
 右手が髪を。左手が私の躰中を……優しく撫で回すの。


 ちょ……ちょっと待ってよぉ、蒼くん……。
 それは想定外……ほら、心の準備が……。
 ……え……ヤダぁ……こんな明るいのに?
 そんなとこに指入れちゃ……ダメだよぉぉぉ…………。


 恥ずかしいのに。
 蒼くんによって一度開かれた躰は驚くほど素直に反応
しちゃって、ちょっとだけ……このままでイイかもって
流されそうになった。
 それを理性の狭間でどうにか引き戻して、やっとの思
いで訴える。


「あのね……イイの。イイんだけどね。まだちょっと痛
いんだ、昨日のとこ。ねぇ…………もう一回するの?」


 その瞬間、彼はバチッと勢いよく瞳を開いてあからさ
まに驚愕した。
 無言のまま数度瞬きをくり返すけど、さっきまでとは
違う。
 完全に目が覚めた……みたい。


「あ……やっと起きたぁ〜。おはよ、蒼くん」
「!? っはよう…………」


 可笑しいことに、私の下半身に伸びた手に一番慌てて
いたのは蒼くん自身だったんだ。


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