◆    2.『ナイト』な幼なじみ



   

 6限目終了後の、大学のラウンジ。

 待ち合わせのこの場所に、どうやら私は2

番目に到着したようだった。


 蒼くんの姿は、まだ……ない。

 それを確認して、私は入り口近くの席に座

り、提げていたトートバッグを静かにテーブ

ルに置く。

 そして片隅に設置された喫煙ルームに、チ

ラリと目をやった。


(しーちゃんってば、またカワイイ子はべら

せちゃって……)


 空港にあるみたいな透明のボックス型にな

っているそこは、誰が入室してるのか人目で

分かる仕組み。

 人気の少ないこの時間のラウンジで、人口

密度がやたら高いのは、普段タバコなんて吸

わない女の子達までもが、集中しているから

だ。


 原因は、しーちゃん。

 男性用ファッション誌『REALリアル』の人気

モデル。


 彼を取りまくキレイどころの甘い香りが、

こちらにまで漂ってきそうで――。


(さすがに見慣れたよね。こういう光景も)


 まだ読者モデルだった高校の時から、しー

ちゃんの周りはいつも人で溢れかえっていて、

私はこんな感じで遠くから眺めていることが

多かった。


 外見に華があるだけじゃない。

 会話が上手で、女の子の扱いがソフト。

 で、男友達にはぶっちゃけトークなんかを

かます、気取らない性格。


 しーちゃんには人を惹きつける、特別なオ

ーラがあるんだと思う。


(……でも、あの口の悪さと、サド的に意地

悪な性格がねぇ……)


 テーブルに肘をついた姿勢で視線だけを投

げて、私は苦笑いを浮かべながらしーちゃん

が一服し終わるのを待っていた。






「ねーねー、さんだよね? 今帰り? こ

の後ヒマだったりする?」

 
 1分後。

 髪の毛をツンツンにたてた男の子が突然、

軽いノりでそんな風に声をかけてきた。


 えっと、誰?

 思わず身構えて、顔を歪ませる。


「うわー! 今、知らねーって思ったっしょ?

ショックだなー。オレ、ゼミで一緒なんだけ

どな〜」


 私が所属する、青波大学せいはだいがく国際文化学部は、

8割型が女子という言わば文系。

 毎週顔を合わせている数少ない男子とくれ

ば、記憶にないはずないんだけど……。


「あははっ! うそ、ウソ! ゼミが一緒な

のはあっちにいるヤツの方で。オレはずっと

カワイイな〜って、思ってて。で、これから

サークルの飲み会あんだけど、ヒマだったら

どーかなーって!」


「……はぁ」


 こういう意味が分からない冗談を言う人の

気が知れない。

 でもサークルの飲み会ってところに興味を

そそられて、差し出されたビラを一応受け取

る。


 なになに。冬はスノボで、夏はテニスとボ

ディボ。

 春は花見に、秋はバーベキュー。

 途中にはダンスイベントなんかもあって……。

 あら、何かすごく楽しそうかも。


 ナンパなノリでアピールしてくる男の子の

声に、たまに耳を傾けながら、私は活動内容

の欄にじっくりと目を通す。


 勧誘の嵐だった春に、サークルを決め損ね

てしまった。

 今からでも入れるところがあるなら、覗き

に行くのもイイかもしれない。


(でも、今夜はダメだぁ……)


 だって蒼くんが、ウチに来ることになって

いる。


 迷っている私に手ごたえアリと感じたのか、

男の子はニカッと笑って、私の肩に馴れ馴れ

しく手をおく。 


「じゃあさ、とりあえず携番でも交換しねー? 

今夜が都合つかないってんなら、次のイベン

トん時にでも連絡いれるし」


「え、ホントですか? それじゃ……」


 そこまでしてくれるんなら……と、私はい

そいそとバッグから携帯を取り出した。

 2つ折りの画面をパカッと開いて、赤外線

受信OK! な状態にしたところで、再び男

の子の方へ視線を戻すと――。



 その傍らには、怖い顔で腕組みをしたしー

ちゃんの姿があった。



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