◆    4.クイーンベッドでお説教



 目が覚めたとき、私は見なれた部屋の真ん

中にいたんだ。



 高い天井にはめこまれたダウンライト。

 大きな窓を飾る高級感のあるカーテン。

 同じ種類の天然木でそろえられた机と棚と、

このクイーンサイズのふかふかのベッドが、

シンプルな部屋に温かみをそえてるの。



(……ココ、しーちゃんのお部屋だ……)

   


 カーテンの隙間から射しこむ光を無意識に

よけて、弾力のある羽毛布団に顔半分まで沈

みこんだ。

 肌触りのいいサテンのシーツを全身で堪能。

 足をすべらせて寝返りをうつと、額にコツ

ンってしーちゃんの背中がぶつかる。



 あぁ。こんな近くにいたんだ。

 だから懐かしい夢をみたのね。



 子供の頃……。

 天海家は私の『こども110番のいえ』だ

った。

 お父さんに怒られるたびに助けを求めて、

泣きながらこのベッドにもぐりこんだの。

 しーちゃんのあったかい背中は最強。

 ピッタリくっついて眠ると不思議とすぐに

涙が乾いて、イヤなことも忘れられた。

 睡眠を妨害されたしーちゃんは当然のごと

くとっても不機嫌で、優しい言葉をかけてく

れるわけもない。

 でもただね、その侵入を許してくれるんだ。



 それだけで十分。

 私にとっては唯一無二の安全地帯。

 

(……どこよりも落ちつくんだよね……)


 うん、もうちょっとだけ寝ちゃおう。

 ぼーっとした頭のまま、再び瞳をとじかけ

て――。





 3秒後、私はハッと我に返った。

 次の瞬間、まるで起き上がりこぼしみたい

なスピードで上半身だけを跳ね上げ、無意味

に瞬きを繰り返しながら周囲を見渡す。



 えっと……えっとぉ……でもコレって。

 客観的に見て、どうなの?

   



 手をのばさなくても触れる距離に、Tシャ

ツ姿のしーちゃんが転がっていた。

 長い手足を無防備に投げだして、枕を抱き

かかえながら私に背をむけて眠っている。

 家族みたいな存在とはいえ、カレシ以外の

男の子と一緒のベッドで寝ちゃうって……ア

リなのかな?

 うぅ〜ん。そもそも。何で一緒に寝てるん

だっけ?

 朝日にキラキラする栗色の髪を見下ろしな

がら、私は昨日の夜のことを必死で思い出そ

うとした。



(奈良ちゃんの合コンにいった……よね。や

たらお酒がすすんで、途中で気持ち悪くなっ

たりして…………)



 フローリングには雑に放りなげられたバッ

グとか、どうでもいい感じに脱ぎ捨てられた

ジャケットやタイツが散乱している。

 それはまるでドラマのワンシーンみたいで、

知らない人が見たら大きな誤解を受けるよう

な光景で。

 蒼くんの驚きながらも怒る――みたいなカ

オが頭を過ぎずにはいられなかった。



(違うよっ! 誤解だからっ!!)


 恋人がこの場に踏み込んでくるっていう修

羅場シーンを蒼くんで妄想して、1人顔面蒼

白した。

 思わずヒロインになりきって、胸元に視線

をおろす。

 服は着てる。もちろん下着もつけてる。

 確認するまでもなく、アヤシイ事なんて何

1つないわけだけど……。

 いい歳してこういうのは、さすがにアウト

だよね。ほら。たしか雑誌の『過去の失敗談

トーク』にも、こんな事例があったじゃない?



 近頃すっかり耳年増な私は、やっぱりヤバ

イって判断。

 とりあえずベッドから降りなきゃと、慌て

て身体を外側へよじった。



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