「……なー、。あれから天海と何か話でき
たか?」
お楽しみの苺ショートを食べ終える。その
タイミングで蒼くんは、フッと表情に影を落
とした。
この数日しーちゃんの話題をあえて出さな
いのを、何となく気にかけてることは分かっ
ていた。
銀色のフォークをカチッと鳴らし、私は無
理なく微笑む。
「ううん、まったく。ウチにも道場にも現れ
なくて、顔も合わせてないんだ。えっと……
蒼くんは?」
「いや、俺も。授業かぶんなくて、メールす
れば普通に返ってくるけど。年末は多忙らし
くて、話す時間はもらえてない」
「そっかぁ」
事態を厳粛に受けとめてる蒼くんとは対照
的に、私の返事は軽かった。
そりゃ〜あの日のことは、売り言葉に買い
言葉で、ムダに怒らせたって反省はしてる。
お見合いの件もあの分じゃもう頼れないし、
兄妹ゲンカにしてはやりすぎた。
けどね。だからって深刻に考えるほどでも
ないでしょ?
しーちゃんが忙しいのは今に始まったこと
じゃないし、ロケがあれば会えない日が続く
のも普通。
ずっと家族みたいに育ってきたんだもん。
この程度のケンカはどうってことない。ほと
ぼりが冷めたころ「ゴメンネ」ってちゃんと
言えば、いつもの意地悪な顔で「ったく」っ
て笑ってくれると思う。
だから私のことはイイの。
気にかかるのは、とばっちりを受けた蒼く
んの方で……。
「ごめんね、私が内緒にしようなんてお願い
したから。しーちゃんがプライド高くて、隠
し事とかされたりするのキライだって知って
たのに……」
たぶんちょっと、顔を合わせづらい状況に
しちゃったんだと思う。今後の仕事だって、
信頼関係なしではやりにくい。
「プライド……。天海のって、それだけじゃ
ねーんじゃ……」
「え?」
「……いや。何でもない」
彼は独り言を口にした後、ふっ切るみたい
に口角を上げた。
「悪い、とりあえず忘れろ。その件はこっち
でどーにかする。は心配しなくていい」
「うん。でも……」
「男同士だし何とかなる。それより今考える
べきは、明日の見合いをどう切り抜けるかだ
よな?」
「……うぅ……」
笑顔に癒されたのもつかの間、後回しにで
きない現実に還されて悲しくなる。
そうだよ。まずは闘わなきゃいけないんだ。
『早乙女和成』という、お父さんが差し向け
たモンスターと。
12時に恵比寿のウェスティン。個室サロ
ンで両家の食事会が、私の戦線。装備万全で
立ち向かって、戦闘不能にしてやらなきゃな
の。
「俺も行こうか? 何かヤバイことあったら、
すぐに飛んでける場所まで」
優しい申し出に、ありがとうと答えてから
首を横にふる。
「しーちゃんがお父さんに、色々話しちゃっ
てる可能性もあるし。大丈夫。私1人でちゃ
んと断ってくるからね」
「……ああ、分かった。終わったら連絡くれ。
何時でも会いにいくから」
「うん。そう言ってくれるだけで、すごく元
気でたよ」
私たちは穏やかに笑いあった。
もう、大丈夫。心が繋がってると分かるだ
けで、こんなにも強くいられるの。
「ふふふっ。実はね、ちょっと作戦たててみ
たんだ。『とことん嫌われ大作戦』と『ロリ
コン呼ばわり追い込み作戦』。どっちの方が
効果ありそうか一緒に考えよ」
「はは。ネーミングだけで、冷や汗かきそう
な感じだな」
「そうなの! 絶対に断られる自信あるんだ
から! 紙に書いて説明するねっ。よし、で
はまず。このテーブルの上を片付けて――」
せめて洗い物くらいはするね! と、遅れ
ばせながら女らしさをアピールしてみた。
ふふっ。実はエプロンもちゃ〜んと用意し
てきたんだ。雑貨屋さんで買ったばかりの、
裾レースの新妻ちっくなヤツ。
バッグからいそいそと取り出して、机に両
手をついて立ち上がろうとする。
でもその瞬間、蒼くんに後ろから抱きしめ
られてバランスを崩した。
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