◆    2.ドッキドキの初デート 



 蒼くんの地元がどんなとこかを知りたくて、

「ランドマークタワーに上りたい!」って、

一番最初におねだりをした。

 横浜には確か子供のころに1度だけ来たこ

とがあったと思う。

 でも車から港を眺めた程度で、特に語れる

思い出もなかったから。

 今日はちゃんと見て帰るんだ! って、行

きの電車の中から気合をいれてきた。
 




「うわぁ〜!」

   



 69階にあるスカイガーデン。

 360度のパノラマ展望台から見える青空

と海と明るい街並みに、私は思わず歓喜の声

をあげてしまう。


「蒼くん、ベイブリッヂが見えるよ〜! あ、

あれってコンチネンタルだよね? わ〜、観

覧車がおもちゃみたい!」



 オシャレなショッピングエリア、可愛い遊

園地、シンボルとも言えるヨット型の高級ホ

テル。

 歴史ある赤レンガの倉庫、シーバスが発着

する広い公園、マリンタワー、中華街。


 懐かしさと新しさが混同する街並みは、ま

るでギッシリと詰めこんだアクセサリーケー

スみたいで。

 私は子供みたいにガラス窓に額をくっつけ

ながら、夢中になって地上の宝石を探しつづ

けた。



「元町って、どのへんを言うの?」
「シーバスってどこまで行けるのかなぁ?」
「あ、あそこ見て! 何かキラキラしてるよ〜」



 半歩うしろに立っていた蒼くんに、何度も

振り返って言葉をなげる。

 蒼くんの実家はここから電車で30分くら

いのところにあって、この中心地は『地元』

とは別エリアになるらしいのだけど……。

 それでも、たぶん見慣れてるだろう風景に

もかかわらず、「次行こうか」とか絶対言わ

なくて。

 彼は疲れた表情ひとつ見せず私が飽きるま

でずっと、そのサンルームで一緒にまどろん

でくれた。


 それが嬉しくて、私はますます饒舌になる。

   



 ホントはね。

 待ち合わせた瞬間に蒼くんが囁いた、「好

きだ」がずっとリピートしてるんだ。

 だから必要以上にドキドキして、頭の中が

ふわふわして。

 テンションがやたら上がっていく。


 うぅ、そりゃあ分かってるよ。

 アレは髪型のことだって、十分に理解して

るんだけど……ね。


 もともと言われ慣れてない言葉を、まさか 

大好きな蒼くんから聞けるなんて考えてもみ

なかったから。

 私が胸に受けた衝撃は、近距離で放たれた

『妖力波ようりょくは』くらいあったんじゃないかと思う。


 いや、受けたコトないけど。

 ……例えも、最悪だけど。


 ただそれくらい、頭の中がポーッとしてる

んだ。



 そして私はいつも以上に、騒がしくて幼い

女の子になってしまう。

 大人っぽいデートを目指してきたのに。



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