キス……された……?



 そう認識したのはしーちゃんの唇が完全に

離れ、視界の中心に捕らえてからだった。


 形の良い、上品な口元。

 こんなにマジマジと見たのは、初めてかも

しれない。


 
 会話の途中だったからか、締まりなく口を

開けていたのか。

 しーちゃんの生暖かい舌が私の舌先に、軽

くだけど触れた気がした。


 一瞬だったソレを、みんなはフレンチって

呼ぶんだろうか? それともディープ?


 どっちでもイイけど。

 イヤ。良くないんだけど、とりあえず……。



 しーちゃんとキスをした。


 
 私はその事実を脳内でリピートさせる。

 身動き一つできないくせに、やけに冷静に

――。

 



「……何か、甘いんだけど」


 数秒後。

 そう呟いたしーちゃんの態度はひょうひょ

うとしたものだった。

 自分の唇の端をペロッと舐め上げて、いつ

もみたいに意地悪く片目をつむる。


「……あ、ピーチのグロス塗ったばかりだっ

たから……」


 すんなりと出た、抑揚のない声。

 眉1つ動かさず言葉を返せたことに、自身

で驚く。


 人は本当に驚愕した時、冷静を装うとする

もの。

 誰かがそんな台詞を口にしていたけど……。

 私もマサに、体感中だ。



 「ふーん」と、納得したんだかしてないん

だか――の反応を見せた後、しーちゃんは

「今度こそは」と右手をヒラヒラと振る。



「じゃあね、。ご褒美の追加を要求した

からには、それなりの仕事をしてよ」


「う、うん……」



 返事を最後まで聞かずあっさりと背中を向

けると、しーちゃんは化粧室を退出した。



 困惑する私を気にもとめず、まるで何もな

かったような顔をして。


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