1人トイレに残され。

 鏡に映った自分の姿を見て、ようやく私は

我にかえる。



(ぎゃー!! しーちゃんってば、何してく

れちゃうのよ〜!!)


 林がファーストキスの相手にならないよう

に、先手を打ったつもりかもしれないけど。


 別にしーちゃんが、自ら奪っていかなくた

って……。

 何も起こらないというコトを、何で想定し

てくれなかったんだろう。


 私は深いため息をつく。

   



 別に……ね。

「ファーストキスは蒼くんじゃなきゃイヤ!」

なんて、考えてたわけじゃないんだよ。

 私も19だし。かえって重いことも分かっ

てるし。

 本当はキスくらい経験しておきたい。



 でも相手が悪いよ。

 私の「思い出の男」がしーちゃんになるな

んてイヤだ。


 だってしーちゃんの思い出には、きっと私

は残らない――。



 キスした女の子の内の1人。

 下手するとウチのワンコ、にチューする

ような感覚だったかも。


 私が一生覚えてたとしても、彼はイジワル

いカオで首をかしげて、

「ああ。そんな事あったっけ?」

 で済ませてしまうに決まってる。



(うわぁ……。何かしゃくだぁ……)

   

 悔しいけど。寂しいけど。

 何と言っても、相手はあのしーちゃん。

 怒って訴えたところで後の祭りだ。


(忘れよう……。って言うか、ノーカウント

で……)


 で、万が一望まないキスをされたら、しー

ちゃんを繰り上げ当選させよう。


 あはっ。

 こんなんでイイのかなぁ……。



 乾いた笑いを漏らし、ちょっと投げやりに

そう決着させた私は、気をひきしめようと流

水を手に浴びた。

 そしてタオルで丁寧に水滴を拭きとった後、

まだひんやりとしたてのひらで両頬をポンポンと叩

いてから、鏡の中の自分にそっと背を向ける。



 いざ、第2ラウンドへ――。


 今は余計なことは考えない。

 目指すはアフターだ! と。


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