青波大学の最寄り駅から、下り電車に揺ら

れて15分。

 便利さと穏やかさを併せもった武蔵野市に、

『宗家』と呼ばれた私の家は存在する。




 地元に到着した私たちは賑やかな駅ビルを

通りぬけ、「お腹すいたねー」なんて会話を

しながら北口ロータリーへ降り立った。


 ここから更に、徒歩15分。

 決して近いとは言えないこの距離に、「寄

る」という言葉が使えるのは、2人がうちの

ご近所に住んでいるからだ。


 しーちゃんの天海家が何世代も前から同じ

地区内であることに加え、蒼くんも今月より

近くのアパートで1人暮らしを始めた。


 天力者として急に仕事で呼び出されたり、

空いた時間を武道の稽古についやしたり。

 家への出入りが増えたことで、地元から

通うのが難しくなったからいう、蒼くんとし

てはやむを得ない事情なのだけど……。


 私は1人、密かに胸を弾ませている。


 だって今までしーちゃんと2人だったこの

道を、これからはこんな風に一緒に歩くこと

が増えるかもしれない――。


 そう考えると、妖力者の出現も悪くないな

ぁなんて、私はまたしーちゃんに怒鳴られそ

うなことをチラリと思っていた。






「……あ。ねー、先に2人で行っててよ。僕

は1軒、寄ってきたいトコがあるから」


 バス通りに入る交差点にさしかかったとこ

ろで、右隣にいたしーちゃんは何かを思い出

したかのようにふと足を止めた。


「え? どしたの、急に」


 驚いて顔を見上げた私の頭を、ポンッと軽

く小突いて、


「すぐ向かうからさ。、蒼をよろしくね」


 なんてヒラリと身を翻す。


「……どうしたんだ? 天海のヤツ」


 蒼くんは怪訝そうにしーちゃんの背中を見

送り、その横でカレシいない歴19年の私は

というと――。


(うわぁ……。2人っきり!?)


 なんて、イマドキ中学生でもあり得ないく

らい、何だかドキドキしてしまっていた。


 

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