「来るなんて聞いてなかったよ。教えてくれ
れば良かったのに……」
しーちゃんの温もりは、いつも私を子供に
させる。
拗ねた顔で唇を尖らせていると、彼はツイ
ンテールに指をからませながらスルッと下に
滑らせて、
「外で出入りを見張るより、中の方が探れる
と思ってね。それにだけに任せておいて
結局、『席にもつけませんでした〜』じゃ、
洒落にならないじゃん」
なんて、目を細めてコチラを見つめる。
でもすぐにフッと表情を戻し、左腕の時計
に視線を落とした。
「10時ジャストか」
「あ……」
私はゴクッと唾を飲む。
彼女達の情報が正しければ、そろそろ男が
現れる時間なんだ。
「。店内じゃ敵は動かない。とりあえず
アフターに持ち込んで」
グラスに注がれた水割りを飲み干してから、
しーちゃんは低い声でそう呟く。
「う……うん、分かった。やってみる。でも、
興味をもってもらえなかったら、どうすれば
イイの? 自信ないんだけど……」
「大丈夫。今日の格好、マニア受けしそうだ
し。これがヤツの趣味なら、絶対に落とせる
って。まあ、ちょっと危ない感じもするけど」
「危ないって…………」
それはそれで恐いんだけど……と私が苦笑
いすると、急に強い眼差しを向ける。
「それに、八純が言ってたんだ。敵は必ず
に惹かれるだろうって」
「……え? どういうこと?」
「よく分からない。『まだ仮説の段階だから』
なんて言って、教えてくれなかったし。でも
とにかくココは、に頑張ってもらうしか
…………」
言いかけて、しーちゃんの視線が私を通り
越し、後ろにいる誰かを捕らえた。
「守備が整ったみたい。そろそろ『待機』に
戻って」
「守備……? う、うん……」
「男から『延長』をとったら、一度パウダー
ルームで落ち合おう」
頼りにしてるからね、と背中を押され――。
私は5番テーブルを後にした。
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