◆ 4.彼氏と彼女
夢だったらどうしよう。
上がりっぱなしのテンションとは裏腹に、
この2日間、何度も不安の波がざぷんっと胸
に打ち寄せた。
(私……蒼くんとキス……。本当にしたんだ
よ……ね?)
感触を思い出したくて、人差し指でゆっく
りと下唇をなぞる。
4限終了後の、国際文化学部11号館。
落ち着きなく受講した一般教養の教室を、
ベルと同時に飛び出して、2人がいるだろう
教育学部の食堂へと足早に向かった。
月曜日の授業なんて鬱陶しいだけなのに、
蒼くんの顔が見たくて、アレは現実だったと
早く確信したくて。学校に来たくて仕方なか
ったの。
だってデートが終わって、彼からきた連絡
は返信メール1通だけ。
【 また、月曜に 】
絵文字もなくて。それらしいコトバなんか、
勿論なくて。
幸せな気分に浸っていたいのに、冷静に現
実を見つめさせられる。
そういえば私、「好きだ」とか言われてな
い――。
あの後、観覧車をおりてから家まで会話も
少なかったし、クリスマスイヴの約束だって
けっきょく曖昧に流れた。
強く繋がれた手だけが、唯一の『証』だっ
たのに、それだって離してしまえば泡沫の夢
だ。
(私、『カノジョ』でいいのかなぁ……?)
キス1つで彼女面……なんて、しーちゃん
に話したら、「これだからは!」って
馬鹿にされるかもしれない。
でも蒼くんなら……。
何とも思ってない女の子に、ああいうコト
はしない気がするの。
でももし、『うっかり』だったら、どうし
よう……。
つい雰囲気にのまれて……とかだったら、
1人浮かれてる私は恥ずかしすぎる。
(うぅぅ……! このモヤモヤ、何かイヤ!)
初めて経験する甘い胸の痛みを、どう押さ
えていいのかさっぱり分からなくて。
とにかく、蒼くんに会いたかった。
学生が列をなす、お昼時の学食。
どんっ!!
「わぁっ!」
「きゃっ」
周りがちゃんと見えていなかった私は、入
ってすぐの食券の自販機前で、誰かに正面か
ら体当たりしてしまった。
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