◆ 4.朱理への恐怖
年明け早々、大学の後期試験がはじまった。
私のスケジュールはとびとびの10日間。
必修の8単位とパンキョの12単位は蒼くんがみっち
り指導してくれたおかげで、どうにか拾えたと思う。
たぶん。
(問題は、明日の専門だよね……)
『フランス文化と日本経済』の筆記テスト。
○×とか選択式じゃなくて、私の苦手な論述。
教授が敬愛してるっていうフランスのジャーナリスト
の記事をまとめた文献をペラペラめくりながら、私は乾
いた溜息をついた。
気分転換とばかりに周囲を見渡すと、試験中の学食は
図書館化してるってことに気づく。
お箸の代わりにペンを持って、テーブルの上にはノー
トや教科書。
いつも混み合ってる食券の自販機はガラガラなくせに、
横にあるコピー機にはずらっと学生が列を作っている。
っていうか、私も。今日はここでランチをする予定じ
ゃないの。
蒼くんの午前のテストがもう少しで終わる。それを待
って、寒いけど屋上で2人きりでお昼が食べたいってお
願いしたんだ。
貴重な時間だもん。できるだけ蒼くんとラブラブして
たい。そんでもって、やっぱり……。
しーちゃんに会いたくないの。
「……」
ぽっかり空いた隣り側に視線を落としながら、私は唇
を何となく尖らせる。
あっ、そういえば。しーちゃんってフランス文学に詳
しかったよね。論述とかも要点をついた短文がお得意で。
そうだよ。元はといえばこの授業だって、手伝っても
らうことをアテにして選択したのに……。
ハッ。
だからそういうの、もうダメなんだってば!!
心の中で自分を叱咤してから、こめかみを軽くゲンコ
ツする。
19年間染みついた甘え癖を振りはらうのは、やっぱ
り簡単なことじゃなかった。
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